バンパー式ハーフローター

『バンパー式ハーフローター』とは、手巻きから自動巻きの過渡期に開発・製造されたムーブメントの機構の名称です。英語圏では『bumper automatic』と表記されるので、バンパー式ハーフローターというのは日本だけで通用する呼び方かもしれません。

*愛好家の間では「バンパー式」「バンパー式自動巻き」「ハーフローター」等いろいろな呼び方がありますが、仕組みを知っていれば、いずれの呼び方でもすぐにイメージ出来ます。

腕時計の歴史は手巻きの機械式から始まりました。現在の機械式腕時計は全回転自動巻きが主流です。

手巻き機械には「気付かぬうちに時計が止まっている」という問題がありました。この問題を解決するために、腕の動き(振り)を利用してゼンマイを巻き上げる技術が1930年代に開発されました。

それが『バンパー式ハーフローター』です。

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1940年代のオメガCal.350でご説明します。
バンパー式ハーフローター オメガ Cal.350

赤丸がバンパー、青の矢印が乗っている部品がローターです。
バンパー(bumper)は緩衝装置、ローター(rotor)は回転する部品のことですね。バンパー式ハーフローター オメガ Cal.350

ローターを回転させてみます。
バンパー式ハーフローター オメガ Cal.350

バンパーに接触し跳ね返されるので、丸い機械の中で半分(約180度)しか動かないのがお分かりただけると思います。

ハーフローターのハーフ(half)は半分のことですが、部品の大きさではなく動きが半分ということです。全回転のローターが左右に360度グルグル回るのに対して、こちらは半分しか動かないのでハーフローター(半回転ローター)と呼ばれます。

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現在の腕時計の主流は、ご存知の通り全回転の自動巻きです。
バンパー式ハーフローターが消滅した理由は、現在の自動巻きと比較すると容易に理解できます。

1.巻き上げ効率が良くない
ローターが回転してゼンマイを巻き上げる仕組みは全回転自動巻きと同じですが、半分しか回転しないので巻き上げ効率はあまり良くありません。「手巻きの補助」といったところです。元々その目的で開発されたと推測できます。

*技術力の高いオメガやジャガールクルトなどは巻き上げ効率が良かったので、長くバンパー式ハーフローター機構を採用していたようで、現存する個体数も多いです。

2.部品の負担
ローターとバンパーが繰り返し衝突するので、衝突のない全回転と比較すると部品に負担がかかります。

各時計メーカーや消費者が全回転自動巻きを選ぶのは必然だと思います。

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しかし、バンパー式ハーフローターにはバンパー式ハーフローターにしかない魅力があります。

ローターがバンパーに接触し跳ね返される時に”コツンコツン” という振動が発生します。その振動は装着していると腕に伝わってきます。それが、とても愛らしく、味わい深く、心地良いのです。

この感触は多くの人を魅了しています。愛好家とバンパー式ハーフローターの話をすると、皆さん一様に「コツンコツン」と仰られ、顔をほころばせます。この感触がたまらないと。私も全く同感です。

バンパー式ハーフローターを採用するメリットは無いので、この機構の腕時計が復刻することは無いと思いますが、アンティークではまだ現存していますので、これからも「1930年代の最先端技術を楽しめるムーブメント」として、いつまでも愛され続けることと思いますし、それを願っています。

 

 

 

 

2019年10月13日 | カテゴリー :