スーパーコンプレッサー

*スーパーコンプレッサーについて知りたいというご要望を頂きました。

エニカ シェルパ スーパーコンプレッサー

スーパーコンプレッサーとは、時計ケースメーカーのErvin Piquerez SA(EPSA)社が製造したダイバーズウォッチ用のケースの商標名です。独特の防水機能で1955年にアメリカで特許を取得し、約20年に渡って製造されました。
*EPSA社は現存していません。

【特許】
特許を取得したのは裏蓋の特殊機構です。
外部の水圧が増加するにつれてケースと裏蓋に圧力がかかり、裏蓋がケースに押し付けられて密閉度が上がる仕組みです。水深が深いほど密閉度が増します。

この仕組みは、水圧のない場所ではケースと裏蓋には完全な圧力がかかっていないので、Oリング(裏蓋のゴム)の寿命が延びるという利点もあったようです。

スーパーコンプレッサーは、ダブル(デュアル)クラウン、インナーベゼルといった特徴的な外観をしていますが、その名称はケースデザインの総称ではなく、「EPSA社製造の、特許取得の裏蓋による特殊機能を備えたダイバーズウォッチケース」のみを指します。

ですから、デザインだけ復刻したものは本来はスーパーコンプレッサーとは言えません。

スーパーコンプレッサーとは
スーパーコンプレッサーには裏蓋に潜水士の刻印があります。

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スーパーコンプレッサーの個性的なデザインも、ひとつひとつに理由があります。

*初期のスーパーコンプレッサーにはシングルクラウンや外部ベゼル、ベゼルなしのケースもありましたが、一般的な人気の高い1960年代のダブルクラウン、インナーベゼルに絞って話を進めます。

【インナーベゼル】
1950年代までのダイバーズウォッチのベゼルは両回転でした。左右に回転するため、ダイビング中に岩などにぶつかってベゼルが動いてしまう危険がありました。

ダイバーズウォッチのベゼルは、水中の滞在時間を設定するためにあります。酸素ボンベの残存量から算出した時間です。ベゼルが動いてしまうと設定時間が正確ではなくなり、酸素の残存量が分からなくなってしまいます。これはダイバーの命に直結するリスクですが、当時は技術的に両回転しか出来なかったようです。

この問題を解決するために、1960年代に2つの技術が開発されました。
・一方向にしか回転しないベゼル(逆回転防止ベゼル)
・風防の内部にベゼルを収納する(インナーベゼル)

EPSA社のスーパーコンプレッサーはインナーベゼルを採択し、岩にぶつかる危険そのものを失くしたのです。

【ダブルクラウン】
*クラウンとはリューズ(竜頭)のことです。

2時位置のリューズはインナーベゼルの操作、4時位置のリューズはゼンマイの巻き上げと時刻合わせに使用します。
ベゼルを内部に収納したために竜頭が2つ必要になったということです。

グローブを装着した状態でも操作しやすいように、リューズのサイズが大きめです。

スーパーコンプレッサーとは
リューズの頭に刻印されたチェック模様は「クロスハッチングマーク」といいます。
*ブランドによってはクロスの上に自社のロゴマークの刻印があります。

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大きなダブルクラウンやインナーベゼルは優れた機能を持ちますが、同時に非常に洗練されたデザインでもあり、スーパーコンプレッサーの大きな魅力となっています。

機能・デザイン共に画期的なこのケースは大人気となり、各社がこぞってダイバーズウォッチに採用しました。

私が見たことのあるブランドは、ハミルトン、ブローバ、エニカー、リップ、ベンラス、ティソ、ジャガールクルト、ロンジン、ロダニア、ウィットナー、テクノス、レマニアなどです。

100社近い時計メーカーが採用したという一文を読んだことがあるので、これからも新しい発見を楽しみにしています。

世界にはスーパーコンプレッサーだけを収集している熱心なコレクターもいますので競争は激しいですが、今後も良い個体に出会えたらショップでご紹介したいと思っています。

60年の時を越えて今なお多くの人を魅了し続ける、ダイバーズウォッチの「ケース」のお話でした。

 

 

 

 

2019年10月9日 | カテゴリー :